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脊髄性筋萎縮症(SMA)1型の息子と生活中

読書メモ - Spinal Muscular Atrophy - Disease Mechanisms and Therapy

こちら1年前に購入して何度か読書メモを投稿していましたが、ひととおり気になる章は読んだ気がするので、1つの投稿にまとめておきます。

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スピンラザがちょうど米国で承認申請をしていた2016年10月に出た本なので、若干情報は古いかもしれませんが、とにかく情報量が豊富な本でした。

SMAの治療の歴史や原因遺伝子の特定にいたる経緯の話、臨床的な症状の説明などが盛りだくさんです。

個人的にとても勉強になったのは、遺伝子発現の仕組みとSMA患者におけるその問題点です。SMA患者の場合、SMN1遺伝子が機能しないため、SMNタンパク質の生成はSMN2遺伝子の肩にかかってきます。しかしSMN2遺伝子では、転写・スプライシング・翻訳という一連の手続きを経てSMNタンパク質ができる過程において、SMN1遺伝子とのわずかな違いによってスプライシングが正しく機能せずExon7が欠落し、それによって不完全なSMNタンパク質ができてしまうそうです。また、こういう仕組みだからこそ、スプライシングをうまく機能させるような物質(Exonのスプライシングを促進する物質、もしくはExonのスプライシングを抑制している塩基配列の働きを抑制する物質)を特定することが、治療につながるそうです。その流れで出てきたのがヌシネルセンです。

また、SMNタンパク質は体内で何に利用されているのかも興味深い内容でした。SMNタンパク質はsnRNPという物質の生成に関わっており、snRNPはスプライシングに関わる物質だそうです。ただ、そうなるとsnRNPの不足によって全てのタンパク質の合成で支障が出るんじゃないの?と思っちゃいますが、影響が出るのは(ほぼ)運動ニューロンだけのようなので、何かさらに別の理由があって運動ニューロンだけ選択的に影響が出ているんだと思います。(この辺りはかなり難しかったので、理解が間違ってるかも)

他にもヌシネルセンについては、薬の開発の経緯もけっこう詳しく載っていました。候補物質を見つけるために、500以上の物質をスクリーニングしたそうです。この本の執筆時点では、まだPhase 3の治験の真っ最中だったようです。

病気のことを詳しく知りたいという方や、ヌシネルセンだけでなく今後出てくるであろう薬がどういった種類の薬で、どういった効果が期待できるのかを理解したいという方は、手元に置いておくと良いかもしれません。ただ、いちおうCare Giver(介護者)も対象にした本のようなのですが、トピックによっては専門家向けの記述もあったりするので、必要なところを拾い読みするのが良いかなと思いました。

[2019/12/7]
不完全なSMNタンパク質ができるところの記述がだいぶ間違っていたので修正しました。

Spinal Muscular Atrophy: Disease Mechanisms and Therapy (English Edition)

Spinal Muscular Atrophy: Disease Mechanisms and Therapy (English Edition)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: Academic Press
  • 発売日: 2016/10/24
  • メディア: Kindle

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